留学支援政策に関する所感

最近NHKスペシャルで戦後の高度経済成長期,バブル期に関する内容を放映していた.とてもまとめられていて,断片的な知識しかない僕にも理解しやすい非常に良質な番組であった.

バブルが弾け,日本が今まで通り国内市場ありきで会社の再建に必死になっている間に,IT革命などが後押しする形で新興国が台頭し始め,一気にグローバル化の波が押し寄せてきた.2013年には大手電機メーカー三洋が中国のハイアールを含む相次ぐ買収によりその姿を消した.終身雇用,年功序列制,根回し交渉などの日本的経営が,目まぐるしく変化する市場競争で生き残れるのか,ざっくり言えばこんな内容だったかな.

僕もイリノイ大学に在学していた時,圧倒的な中国,韓国人学生の多さ,また日本人の少なさには焦りを覚えたのは記憶に新しい.日本人なんて,ほとんど僕みたいな交換留学生ばかりで,正規留学している人なんて数えるほどしかいなかった.それに比べ,中国人学生は数千人規模で在学していた.韓国などのその他アジアからの留学生も相当いたし,インドやヨーロッパ出身の学生も数多くいた.イリノイ大学は世界大学ランキングでも結構上位にあるが,噂によると特に理系では優秀なアジア人,インド人留学生がガンガン論文を書きランキングを釣り上げているらしい.僕はイリノイ大学で初めてグローバル化の波とやらを実感として感じたのである.

このイリノイ大学での経験が,NHKスペシャルの内容と重なり,個人的にかなり危機感を感じた.僕は大学研究機関での経験しかないが,少なくともそこでは日本人がグローバル化のスピード感について行っているとは言えない状況を目の当たりにした.大学研究機関とビジネスでは話が違うと言う声が聞こえてきそうだが,若いうちから肌で世界の変化・競争を経験している人と,そうでない人が社会に出て競争し始めたら,結果は目に見えているように思う.

ここ数年政府が海外留学促進に躍起になっており,大学機関も「若者よ,外に出よ」と声高らかに言うようになった.最近では「トビタテ!留学 JAPAN 日本代表プログラム」 という政府の留学推進政策の広報を見かけるようになった.この政策では交換留学生や短期留学で海外に行く学生を支援しようというものだ.(ただし正規留学は対象外)海外に行く機会を与え,そこから自分で行動するきっかけを与えることが目的だ.交換留学・短期留学を考えている人は是非応募するべき奨学金だと思う.

しかし,そんな風潮の中,僕はある違和感をぬぐいきれない.確かにそのように短期や交換留学の経験は素晴らしい経験になるだろうし,その後の人生の選択の視野を広めるだろう.実際僕も交換留学を経験したが,素晴らしい経験だったと思う.しかし,世界の優秀な学生は正規学生として留学し,寝る間を惜しんで勉学に励み,ネイティブの学生よりも結果を出している中,日本はきっかけづくりのために短期留学だけ推進していて良いのだろうか.

(Cambridge, MA - September 15, 2008) Moral Reasoning 22: Justice, taught by Professor Michael Sandel inside Sanders Theatre at Harvard University.  Staff Photo Justin Ide/Harvard News Office
(Cambridge, MA – September 15, 2008) Moral Reasoning 22: Justice, taught by Professor Michael Sandel inside Sanders Theatre at Harvard University.
Staff Photo Justin Ide/Harvard News Office

勿論政府も正規留学のための援助は行っている.この奨学金では授業料は一年上限250万,生活費月学12万程度(留学地域によって異なる)を支給してくれる.これだけの額を毎年約130名に支援している.貴重な税金をこれだけ割いてくれるのは感謝してもしきれない.しかし,大きな問題もある.この支援,大変恐縮ながら海外の超高額な学費を支払うには全く足りないのである.例えばスタンフォードは学費だけで約500万,生活費も加えると一年に700万はかかる.僕の行っていた州立大学のイリノイ大学でも授業料一年約350万である.(僕は交換留学だったため,日本の大学に授業料を納めており,高額な授業料を払わずに済んだ.)生活費の12万円も,住居費だけでほとんどなくなってしまうだろう.結局のところ,政府の奨学金を得て正規留学できるのは,裕福な家庭に生まれた学生に限られてしまうのが現状である.普通の学生は非常に倍率の高い財団法人の奨学金,または民間奨学金を取得する,または志望先の大学でTA,RAを取得し授業料を免除にするほか方法がなく,“非常”に狭き門となっている.そのため,アイビーリーグやその他世界的な研究機関からオファーを貰っても,政府の奨学金だけでは高額な学費を払えず,留学を断念する方も多くいる.この現状を,政府の方は知っているのだろうか.

「トビタテ留学 JAPAN」だが,去年あたりから高校生の海外ボランティアなども支援し始めた.このプログラムが支援する総数は500名を超え,非常に手厚い支援をすることで知られる.また政府はトビタテ留学JAPANの他にも短期留学のための奨学金プログラムを行っている.僕は,きっかけづくりは非常に大切だし,推進するべきだと思う.しかし,きっかけばかり作っていても,その先の「学位留学」や「学術振興」の支援も同様に拡張しなければ,世界でやっていける人材の芽を摘んでしまっているように感じてならない.これだけ短期留学支援ばかり充実させており,いささか予算配分が偏っている印象を受ける.「グローバル化推進!」,「若者よ,外に出よ!」というキャッチフレーズと政策が,本当に世界の競争に挑戦したい人を支援できていないと感じることが,先に述べた僕が感じる違和感なのだろう.

別に外に出る若者を増やすこと,留学する事がグローバル化の波の中で生き残る唯一の手段ではないが,NHKスペシャルを見て上記の支援制度に関する考えが頭の中に浮かんだのでここに書き記しておく.やはり僕としては,交換留学などで,真剣に正規留学を志した人がそれを実現出来るように,政府の支援拡張を期待したい.

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