渡米直前に思う事

もうすぐ渡米である.昨年イリノイ大学での交換留学プログラムを終えて,慌ただしく米国大学院へのテスト,出願書類を準備し,気づいたらまた渡米という感じだ.あっという間の一年だった.この一年慌ただしい生活を送っていたため,周りの方に迷惑をかけてしまったことも多々あるが,良い先生・先輩・友人に恵まれて本当に良い時間を過ごせたなと思う.また,こんな身勝手な息子をいつも見守ってくれる両親には一生頭が上がらない.

米国大学院の結果を振り返ると,僕はミシガン大学修士課程,パデュー大学博士課程からオファーを頂いた.パデュー大学は,修士課程を飛ばしていきなり博士課程(英語ではDirect PhDとか言うらしい)のオファーで,歴代米国宇宙飛行士の1/3以上を輩出している宇宙工学の聖地のような大学ということもあり魅力的なオファーではあった.しかし,研究分野,その他もろもろを考慮してミシガン大学への進学を決めた.ただ合格通知を頂けたのは,たくさんの友人・知人の助けがあったからなので,頑張って卒業して社会で活躍する事で恩返ししたい.

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University-of-Michigan

何で進学先を米国にしたのか?とよく聞かれる.最先端の研究環境に身を置きたい,世界トップレベルの学生と熱く議論したい,日本から放り出されても生きていける力を身に付けたい,日本の航空宇宙工学発展に貢献したい,と色々思い浮かぶ.嘘ではないし,そういう気持ちで現地生活を送るだろう,しかし本当の自分の気持ちは,「米国の空気が居心地よかったから」だと思う.イリノイ大学在籍中は,もちろん英語では相当苦労したし(まだしてるけど),日本人として差別も受けたこともあったし,友人はなかなかできないし,授業でも友人に助けられっぱなしで,全体としては上手くいってない事の方が圧倒的に多かった.ただ,良くも悪くも上手くいかない事が当たり前の状況に慣れてくると,とても大きな開放感を感じていた事を覚えている.

自分のやりたいことをやるのはいい事だし,嫌な事,間違っていると思う事にははっきりノーと言うのが良い事という社会.日本ほど周りからの目線や,体裁,慣習,上下関係というものに縛られず,感じる通り,自分の欲する通りに生きる事を容認する.米国で少しでも暮らした方には,なんとなく分かる感覚ではないだろうか.

ただ,僕がキャンパス内,旅行先で経験したことは米国社会のほんの一面でしかないだろう.世帯の上位5%未満に,富の60%以上が集中している超格差社会.教育に関しても,いわゆるエリートに育成するには,私立高校の高額な学費を支払う,または高級住宅街に住みレベルの高い公立高校に通わせるしかない.(米国では,日本のように高校受験が無く,高校は自分の住んでいる場所によって自動的に決定される).いい高校に入らないと,せいぜいコミュニティカレッジに入るのが精いっぱいで,有名私立大学,パブリック・アイビーなど良い州立大学に入れないし,そもそも年間300万程の高額な授業料を払えない.そうすると,就職先も限定され,次の世代でもその所得帯域から抜け出すことができないという悪循環な教育社会問題もある.今回正規留学するにあたって,もっと米国社会に触れ,良くも悪くも色々感じることがあるだろう.

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Moon Over Manhattan

日本は治安もよく,経済も発展していて,教育も充実しているし(英語教育は除く),水も綺麗だし,食べ物も美味しいし,国民性は勤勉で,とてもいい国だ.振り返ると,昨年日本に帰国したときは米国にかぶれていた感は否めなかったが,今は日本と米国を少しは冷静に比較出来るようになったと思う.寧ろこの一年を通して,自分の日本人としてのアイデンティティを自覚できたし,自分の人生は日本の工学の発展に貢献したいと思うようになった.

しかし日本は,保守的で変化することが苦手な面もある.その分,日本は歴史的に見ても外部のものをうまく取り込んで発展してきたように思う.飛鳥~平安時代は東アジア文化,戦国時代・江戸時代は欧州(オランダ)の技術・知識,明治維新,戦後は米国に政治,経済で依存してきた.日本は技術・文化を一度取り込んでしまえば,勤勉な国民性からそれらを一段上のレベルに昇華させるのは得意だ.そして現在,バブルがはじけて失われた20年を経験し,追い打ちのようなリーマンショック,そして東北大震災を経験し,世界のスピード感ある変化にさらされ続けているが,このままで大丈夫かなと心配になる.特に欧米に比べ航空宇宙分野への予算がかなり少ない日本は,このままでは当分野で後進国になってしまうのではないか,と心配してしまう.何か僕が米国で身に付ける知識・技術・経験を日本に伝来させることは出来ないか.

グローバル化と言われているが,これは工学も例外ではない.国境を越えて進出,技術統合,企業買収,共同研究が行われており,バブル期のように国内で話が完結するような世の中ではない.こんな世の中であるのに,イリノイ大学で感じたのは日本人の圧倒的な存在感の薄さであった.日本人で在籍しているのはせいぜい数十人で,ほとんどが僕のような交換留学プログラムで来ている生徒ばかり.一方,中国,韓国,インド人学生は数千人規模で在籍しており,流暢な英語で米国人と同等以上に結果を出していた.イリノイ大学はパブリック・アイビーと呼ばれる米国屈指の州立大学の一つであるが,イリノイ大学生でさえ今の日本首相が誰なのか知らない人も多く,未だに小泉さんが首相だと思っている人もいる.というか,米国でニュースを見ていると,欧州,中国の事は報道するのに,日本の事がほとんど報道されない.21世紀,日本はもう世界に取り残され始めているのではないかとさえ思った経験であった.

先ほど日本の工学に貢献したいと書いたが,これから僕が米国で学ぶ専門知識,産業体型などを日本に還元したいという気持ちがある.特に航空宇宙工学に関しては,米国が最先端な研究を行い,宇宙産業の民営化など世界を先立つ産業システムを構築している.しかし,日本も航空宇宙産業で非常にレベルの高い企業を誇っており,国内だけでなく,世界展開する可能性は秘めていると思う.MHIのMRJや,ホンダのホンダジェットなど日本でも面白そうなプロジェクトはあるので,今後も継続し世界へ食い込んでほしい.

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僕は返済義務無しの奨学金で,授業料,生活費,渡航費をサポートして頂くが,円安の煽りも受け,残念ながら授業料に関しては奨学金ですべてを賄う事が出来ない.生活費は多分奨学金で事は足りるが,授業料はせいぜい2/3程度しか払えないだろう.そこで僕の当分の目標はRA(Research Assistant)のポジションを探すことだ.

RAとは,研究室が学生を研究員として雇うシステムである.RAになると,サラリーマンくらいの給料がもらえ,授業料も免除となる.(米国大学院のシステムは日本とかなり異なるので,興味のある方はここを見てみてください)ネイティブ学生との競争に勝って,このRAを見つけない限り,恐らく僕は金銭面的に強制退学となってしまうだろう.かなり背水の陣である.交換留学の時と一番違うのは,これからは米国で経済的にも,実力的にも自分で生きていかねばならないという事だ.米社会は文字通りの実力主義であるため,落ちこぼれれば簡単にふるい落とされてしまうだろう.

イリノイ大学の生活を思い出すと,相当苦労する事は目に見えている.英語ができない,周りのガンガン発言する空気についていけない,日本では想像もつかないような課題量で寝る暇もない,成績不良であると強制退学,とやばそうな臭いしかしない.ただ,最初に述べたとおり自分の欲する通りに生きて,目標,やり遂げたいことを見失わずになんとか一つ一つ乗り越えていきたい.そして,多忙な生活の中にある人とのつながりや,日々の何気ない幸せを大切にしたい.

以上,渡米前に思った事・不安を綴ってみた.激しい競争の中生き残って,一年後自分でこの文書を見返し,「こんな苦しんでいる時期もあったなぁ」と笑い飛ばせるようになりたい.

参考文献 超・格差社会アメリカの真実 著:小林由美

2件のコメント

  1. 渡米前に会えてよかったよ!
    ひとまわりふたまわり大きくなって
    帰ってきてくれるのを楽しみにしてる。
    大和魂見せつけてきてくれ!

    1. ゆきよさん
      ありがとう!親不知抜いた後だったから,思うように話せなかったのが心残りだけど笑
      一時帰国の時は,またみんなで集まろうね.

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